住空間ユニット

テーマ:

災害時を考慮した自立型建築・都市の研究
~災害時にも生存可能な集合住宅へ~

ユニット長:一ノ瀬 雅之 准教授

所属:

都市環境科学研究科 都市環境科学専攻 建築学域

H25年度研究進捗報告

 本ユニットでは、多摩ニュータウン(以降NT)の集合住宅を対象にした現状の環境的な建築性能を把握するための調査、そして省エネルギー改修手法である外断熱改修住戸の熱環境実測とアンケート調査を実施した。

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(1)多摩NTの集合住宅のデータ収集

  • URから多摩NT全体の建築概要ならびにUR賃貸住宅の断熱性の変遷概要資料を得た。1970~2003年度に建設された集合住宅は、126団地、294棟、11289戸(建築面積327657㎡)であること、また、断熱性能は建設時期により異なることがわかった。 
  • URの多摩NT全体の集合住宅プランを得た。各団地の基本的な間取りと延床面積はわかったが、個別の棟・住戸の熱性能データのリストはないことが判明した。そこで、住戸タイプ(2LDK、3LDKなど)と建設年代で整理・解析することとした。 
  • 2005年の資料には、新住宅市街地開発事業区域内には、URが賃貸約11,000戸、分譲約17,600戸(計27,600戸)、都営と都公社で併せて約2万戸、民間が約8千戸の計5万戸の集合住宅があると書かれていることがわかった。
  • 年代別に壁の断熱性能についてまとめたところ、1982~1994年に建設された住棟(下記の実測団地もここに含まれる)の熱貫流率(U)が0.89W/㎡Kで、1999年度までに建設された約2万5千戸のうちの半数近くあること、また、1979年以前に建設された住棟は南壁が断熱されてなく(U=3.47)、そのような住戸が約1万戸(全体の41%)あることが判明し、断熱改修の効果が高いことが明らかになった。なお、分譲住宅の仕様は公表されていないが、賃貸と同様であるとみなしている。下記実測対象2団地は、賃貸と同仕様であった。

 

(2)外断熱改修住戸の熱環境実測

  • 外断熱改修団地4戸と未改修団地1戸に温湿度計・表面温度計を設置して、2013年2月より実測しているが、そのデータを解析している。1年間、継続して測定する予定で、測定点は各住戸6点(リビング上・中・下、北側居室、脱衣室、リビング表面温度)である(表面温度は、最上階は天井、中間階は壁、最下階は床を計測している)。 
  • 冬季に室内熱環境を赤外線放射カメラで測定したが、そのデータも解析中。 ・温湿度計・表面温度計を、新たに外断熱改修団地2戸(→計6戸)と未改修団地2戸(→計3戸)に、7,8月に設置し、測定を継続している。 
  • 夏期の測定データから、断熱改修住宅は未改修住宅に比べ、室温は全般に1℃弱高いが、天井や壁の表面温度は2℃程度低く、熱放射環境が改善されていることなどが明らかになってきた。 
  • 冬季の居間の平均室温は、断熱改修住戸と未改修の住戸とも13~18℃で、暖冷房がされるため大きな差は見られないが、一般的な住宅の平均値18℃よりも低い。ただし、暖冷房時間は改修済み住戸ではかなり少なくなっている。
  • 冬季の室温の上下温度差は、未改修住戸で4℃であるのに対し、改修済み住戸では約2℃と非常に小さく、外壁の断熱とともに窓の断熱性能向上の効果が大きいことが示された。外壁からの熱損失量を表す熱貫流率では、改修済み住戸の壁は改修前の1/2程度、窓は1/4程度になっており、屋根、壁、床および窓をぐるりと断熱することの効果が現れている。 
  • 北側室は、暖冷房される時間が少なく、中には納戸のように使われてまったく暖冷房していない住戸もあった。そのため冬季の室温は低く、最低室温は改修済みでは約10℃、未改修では約7℃になっている。 
  • 居住者の着衣量は、夏季約0.6clo、冬季1.15cloで、改修済み、未改修でほぼ同じであった。特に冬季は、長袖の下着に厚手の上下、綿入れ半纏(はんてん)を着用したような着衣量で一般より厚着であることが明らかになった。改修済み住戸では、改修前と同じような衣服を着て同程度の室温にしていることでバランスがとれ、その結果、暖冷房時間が少なくなったと考えられる。

 

(3)外断熱改修団地に対するアンケート調査

  • 冬季に10棟146戸に実施したアンケートを解析中。(夏季アンケートは現在準備中)
  • アンケート内容は、暖房の状況、結露やカビの発生状況、室内の温冷感、着衣の状況、および、断熱改修についての意見とエネルギー使用量(電気、ガス、灯油)。
  • 今後、ライフライン障害時に自宅で何日過ごせると思うかなどについても聞く予定。
  • 夏季アンケートを実施した。加えて、未改修団地に対するアンケートを8棟199戸に実施した。冬期・夏期アンケートは改修住戸、未改修住戸それぞれ61戸、58戸の回答を得(回収率は41%、29%)、現在、解析中。
  • 「災害時に暖房のない状態で自宅で何日過ごせますか?」という問いについて、改修住戸61戸、未改修住戸57戸の回答を得た。「1日未満」は、それぞれ1 (2%)、1 (2%)であり、「1~3日」が22 (36%)、19 (33%)、「4~7日」が14 (23%)、14 (24%)、「一週間以上」が24 (39%)、23 (40%)という興味深いデータを得た。断熱改修の有無による差はほとんどないという結果になったが、「ふとんにくるまれば大丈夫」というコメントがあり、「生活可能日数」の定義を「生活できる」なのか「生きていられる」なのかをはっきりさせて、再度、調査する必要があると思われた。
  • 「災害時、避難所に行かずにお住まいの住戸で生活するためには何が必要だと思いますか?」という問いには、食料、飲料水の他、カセットコンロなどの煮炊き用の器具、懐中電灯・電池、ラジオ・スマホ、そしてトイレという回答が多かった。数は少ないが、太陽光発電・太陽光の充電器、発電機などの回答もあった。

 

(4)今年度のまとめ

 以上を総合して、ライフライン遮断時の室内熱環境を考えると、一般にコンクリート製の建物では、暖冷房停止後7日くらいで外気温と同程度の室温になること、対象住戸では冬季の室温が一般より低いことから、未改修でも3日程度は室温が5℃以上に保たれ、改修済みはもう少し長いと推察される。ただし、これらについては今後の検討が必要である。
 したがって、温熱環境の観点からは、多摩地域の集合住宅では3日程度、もし開放型の石油ストーブのような暖房器があれば、これも検討が必要ではあるが、改修済み住戸では7日程度は生活できると考えられる。 そうなると、避難所に行かなくて済むようになるためには、

  1. 食料、水は避難所などで配給を受けられる。(制度を準備する必要がある。)
  2. 太陽光発電を屋上に設置し、非常時には夜間の照明およびラジオ・携帯の電源程度を賄える。
  3. 団地内で使えるトイレがある。
  4. 各住戸で、備蓄を行うことが重要であるが、その中に非常時に暖房に使える器具などを含めておく。

ということが必要であると考えられる。この中で、トイレについては、仮設トイレをその日のうちに運んでくることは無理であるため、「日頃から使え、非常時にも使えるものを用意しておく」ことが、今後の大きな課題と考えられる。

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調査研究内容:

  1. 研究の背景
    防災対策では,災害緊急時とともに本総合研究が対象としている復旧期・復興期への対策が重要であるが,実は「避難者を出さない」ことが最も効果的な対策である。一方,地球環境問題からエネルギー自立型建築・都市への早急な移行が求められているが,創エネルギーシステムを持つ自立型建築は災害時にも自立できる可能性が高く,防災の観点からもその早期普及が求められる。
  2. 研究目的
    自立型建築・都市では,太陽光発電,雨水利用,太陽熱利用などの自然エネルギー利用とともに「徹底した省エネルギー」が不可欠であり,それ故,自立型建築では建築の環境性能も高く,エネルギーが途絶えた状態でも人間が生存できる環境を維持できる。そこで,本研究では,多くの避難者を出さないという観点から,ニュータウン(以下「NT」と記す)の代表である多摩NTの既存集合住宅を対象に,現状の環境的な建物性能の把握と省エネルギー改修手法・効果について検討する。この研究では,多摩NTの全集合住宅を改修した場合の省エネ効果というマクロ的な視点と,省エネ改修した住棟・住戸の省エネ効果および室内環境改善効果というミクロ的な視点の両面から検討を行う。

メンバー:

  • 一ノ瀬 雅之 准教授
  • 須永 修通  教授
  • 角田  誠  教授

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